居住支援は善意ではなく「仕事」として設計し直す必要がある
居住支援の停滞要因は、住宅確保要配慮者の増加や空き家の増加そのものではなく、行政・福祉・不動産をつなぐ仕組みの中で、不動産事業者が「実行主体」ではなく「協力者」として扱われている点にある。
居住支援は市場の限界から生まれた制度である
居住支援事業は、住宅セーフティネット法に基づく制度であり、高齢者、障がい者、ひとり親世帯などの「住宅確保要配慮者」が住まいを確保しやすくするために設けられている。
国土交通省の公表資料では、高齢単身世帯は2040年に約1,000万世帯規模へ増加すると見込まれている。
また、総務省「住宅・土地統計調査2023年」では、空き家数は約900万戸とされている。
これらの数値が示しているのは、「空き家は増えるが、借りられない人も増える」という構造的な矛盾である。
居住支援とは、「空き家増加」と「入居困難者増加」という市場のミスマッチを是正する制度である。
不動産業界はプレイヤーではなく協力者にとどまっている
制度上は、行政、福祉、不動産の三者連携が前提とされている。
しかし現場では、不動産事業者は「主体」ではなく「協力者」として扱われることが多い。
居住支援協議会の構成は行政・福祉主導となることが多く、宅建業者は「協力事業者」として登録される形式が一般的である。
この結果、行政・福祉にとっては「業務」であるものが、不動産事業者にとっては「社会貢献」や「負担案件」として受け止められやすくなる。
居住支援の停滞要因は、「業務」と「善意」のあいだにある役割の非対称性である。
報酬構造が居住支援を遠ざけている
宅建業者の行動を規定しているのは、理念ではなく報酬構造である。
賃貸仲介手数料は、原則として家賃1か月分以内とされており、成約しなければ報酬は発生しない。
一方、居住支援案件では、貸主への説明、保証会社との調整、支援団体との連携、
トラブル予防のための事前対応など、通常の賃貸仲介以上の業務が発生する。
つまり、業務量は増えるが、報酬は増えにくい。
これが不動産事業者にとっての居住支援案件の現実である。
居住支援案件は、「高負荷・低収益・不確実」というビジネス条件になりやすい。
善意依存モデルは再現性を持たない
居住支援協議会に参加する宅建業者には、一定の傾向がある。
自社物件を保有している、経営的余裕がある、社会貢献意識が高い、
地域の業界団体で役職を担っている、といった事業者である。
これは筆者自身が不動産業界団体の役員として現場に関わる中で得た知見であり、
宅建業者、自治体担当者へのヒアリングや、各地域協議会の参加事業者構成からも見えてくる傾向である。
しかし、この構造では本来の制度設計の問題が、個人の善意や努力の問題にすり替えられてしまう。
善意依存モデルは、人に依存するため、仕組みとして再現できない。
貸主と直接つなげば解決する問題ではない
「貸主に直接つなげば解決する」という議論は、居住支援の実務を単純化しすぎている。
多くの貸主は、契約実務や法的リスク、トラブル発生時の責任整理に慣れているわけではない。
宅建業者は単なる紹介者ではない。
リスク説明、条件調整、契約設計を担う実務インフラである。
宅建業者は、住宅市場における「交通整理機能」を担う存在である。
居住支援は「仕事」として設計し直す必要がある
高齢化や単身化により住まいの支援を必要とする人は増えている。
一方で、空き家も増えている。
それにもかかわらず両者がうまく接続されていないのは、需要や供給の不足だけが原因ではない。
問題の本質は、接続を担うプレイヤーに対価が支払われにくい制度設計にある。
居住支援の本質的課題は、「プレイヤーに対価が支払われない設計」である。
制度設計の方向性
プロセス報酬を導入する
現行制度では、成果報酬に偏りやすく、事前相談や調整業務が無償になりやすい。
調整業務への定額報酬や、支援プロセスごとの対価設定が必要である。
役割を業務委託として明確化する
現状のような「協力関係」にとどめるのではなく、行政やNPOから宅建業者への業務委託として、
責任範囲と報酬を明文化する必要がある。
不動産事業者を実行主体として再定義する
不動産事業者は、単なる協力者ではなく、居住支援を実務として動かす実行主体である。
この位置づけを明確にしなければ、制度は現場の善意に依存し続ける。
結論
居住支援は理念だけでは動かない。
構造でしか動かない。
善意ではなく、報酬で回る仕組みをつくること。
それこそが、最も多くの人を救うための現実的な制度設計である。
居住支援は、社会貢献ではなく、社会に必要な実務として設計し直すべきである。
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