【提言】居住支援は『仕事』にしなければ動かない

1.居住支援は市場の限界から生まれた制度である

居住支援事業は、住宅セーフティネット法に基づく制度であり、高齢者・障がい者・ひとり親世帯など「住宅確保要配慮者」の住まい確保を目的としている。

・国土交通省の統計では、高齢単身世帯は2040年に約1,000万世帯規模へ増加見込み(国土交通省 住宅局 公表資料)

・総務省「住宅・土地統計調査」では空き家数は約900万戸(総務省統計局「住宅・土地統計調査2023年」)

これらの数値が示すのは、「空き家は増えるが、借りられない人も増える」という構造的矛盾である。

→ 居住支援とは:「空き家増加×入居困難者増加」という市場のミスマッチを是正する制度である。

2.不動産業界はプレイヤーではなく協力者にとどまっている

制度上は、行政・福祉・不動産の三者連携が前提とされている。

しかし現場において、不動産事業者は「主体」ではなく「協力者」として扱われている。

・居住支援協議会の構成は行政・福祉主導が多数(各自治体の居住支援協議会設置要綱)
・宅建業者は「協力事業者」として登録される形式が一般的(国土交通省 居住支援協議会ガイドライン)

この結果、以下の認識のズレが生じる。

◆行政・福祉→「業務」
◆不動産事業者→「社会貢献・負担案件」

→ 居住支援の停滞要因は、「役割の非対称性(業務 vs 善意)」である。

3.報酬構造が居住支援を遠ざけている

宅建業者の行動を規定しているのは、制度上の報酬構造である。

・宅建業法により、賃貸仲介手数料は原則「家賃1ヶ月分以内」(宅地建物取引業法および関連告示)

・成約しなければ報酬は0円
・事前相談や調整業務に対する報酬請求は原則不可(国土交通省 不動産業課通達)

居住支援案件では以下が追加される。

◆貸主への説明・説得
◆保証会社との調整
◆支援団体との連携
◆トラブル予防のための事前対応

つまり「業務量は増えるが、報酬は増えない」。

→ 居住支援案件は、「高負荷 × 低収益 × 不確実」というビジネス条件になる。

4.善意依存モデルは再現性を持たない

居住支援協議会に参加する宅建業者には、一定の傾向がある。

協議会参加事業者の多くは
 ①自社物件を保有している
 ②経営的余裕がある
 ③社会貢献意識が高い
 ④地域の業界団体の役員である

これらは、筆者自身が不動産業界団体の役員であることから得た知見による。

・現場ヒアリング(宅建業者・自治体担当者)・各地域協議会の参加事業者構成

この構造により、問題は次のように歪む。

◆構造問題 → 個人の善意の問題にすり替わる
◆制度設計 → 現場の努力に依存する

→ 善意依存モデルの特徴:「人に依存し、仕組みとして再現できない」

5.貸主と直接つなげば解決する問題ではない

「貸主に直接つなげば解決する」という議論は単純化しすぎている。

・貸主の多くは契約実務・法的リスクに不慣れ(賃貸トラブル事例/国民生活センター)
・トラブル発生時の責任整理が困難(不動産実務における一般的知見)

宅建業者は単なる仲介者ではなく、「リスク説明」「条件調整」「契約設計」を担う「実務インフラ」である。

→ 宅建業者は、「市場の交通整理機能」を担う存在である。

6.結論:居住支援は『仕事』として設計し直す必要がある

ここまでの構造を整理すると結論は明確である。

・需要は増加(高齢化・単身化)/国土交通省・総務省統計
・供給は存在(空き家増加)/国土交通省・総務省統計
・しかし接続が機能していない/制度設計(住宅セーフティネット法)・業界実務(宅建業法)

問題の本質は「仕組み」である。

→ 居住支援の本質的課題:「プレイヤーに対価が支払われない設計」

7.制度設計の方向性(再構築案)

必要なのは、居住支援を「善意の領域」から切り離すことである。

①プロセス報酬の導入(現行制度では成果報酬のみ→ 途中業務は無償)

【提案】
・調整業務への定額報酬
・支援プロセスごとの対価設定

②役割の明確化(業務委託化)

現状は協力関係にとどまる

【提案】
・行政・NPOから宅建業者への業務委託
・責任範囲と報酬の明文化

③プレイヤー再定義
→ 不動産事業者は、「協力者」ではなく「実行主体」である

居住支援は理念では動かない。
構造でしか動かない。

→ 「善意ではなく報酬で回る仕組み」こそが、最も多くの人を救う

著者:阿部浩一@合同会社うんすい宅建(最終更新日:2026年5月1日)